20のお題 ダーク系お題
14 鏡


 ――第三の謎を無事に解きし者達よ
 ――次なる謎を解いてみせよ
 ――汝らに問う。我が最も憎んでいるものとは何か?
 ――それを探し当て、我が前に置き
 ――完全に破壊したそのとき、最後の謎、表れん
 ――ただし、それに手を下すのは、我でなくてはならない

 
 その存在に最初に気づいたのは、ルーミィだった。
「ぱーるぅ、くりぇー! こえ、こえー!」
 それは、女神像の身体の部分……すなわち、一番最初に「罠にかかれ」という文が表れた場所に、改めて浮いて出たらしい。
 ひょっとしたら、俺が意識を取り戻したときには、それは既に出現していたのかもしれねえが。誰もそれに気づく奴はいなかった。
「……じゃあ……」
 最後まで俺の話を聞いて。真っ先に声をあげたのは、クレイだった。
「あの女神像が……ダンジョンマスターだって言うのか?」
「モデルにしたのは確かだろうな」
 見上げれば嫌でも思い出してしまう。最後に見た、あの光景を。
「化け物と言われて石を投げられて……死んだ。それがダンジョンマスターの最期だった」
「で、でも……そんなのっておかしいですよ!」
 俺の言葉に、髪をかきむしりながら叫んだのはキットン。
「だ、だってトラップが見たその子は、12〜3歳くらいだったんでしょう? その年でこんな大掛かりなダンジョンを作れるなんて……」
「んなこと言われても、事実こうして第三の謎は解けたことになってんだろーが」
 ぴっ、とパステルを指差してやると、「うっ」と呻いて引き下がった。
 あの白いガキの持っていたナイフを使うことで、俺はこうして元の場所に戻ってくることができた。
 「我がナイフを用いて」と謎にはあった。あのガキがダンジョンマスター。俺達を散々振り回している相手。それは間違いねえ。
 そして。
 「見なければならなかったもの」があの光景。ダンジョンマスターの最期。
 何でそんなもんを見せたのか。それは類推することしかできねえが……
「どうやって作ったのかなんて俺は知らねえ。けど、これだけは確かだ。色素のねえ身体のせいで散々ひどい目にあって、自殺した。ダンジョンマスターはそれを知ってもらいたかったんだろうよ」
 幻覚か夢か、それはよくわからねえが。過去に自分が受けた仕打ちを知ってもらうこと。それがこの謎の目的。
 現実に戻る方法は、幻覚を打ち破ること……周囲のものに手を触れることができねえのなら、自分の身体をどうにかするしかねえ。ほとんど直感みてえなものだったが、どうにかうまく行ったらしい。
 クレイ達の話しでは、女神像の目を見た後、俺は突然意識を失って上から転がり落ちてきたらしい。
 やっぱ夢……みてえなもん、だよな。
 実際、戻ってきたときには、ずぶ濡れになった挙句に返り血を浴びていたはずの服がすっかり元に戻っていたから。現実の光景のはずはねえんだが。
 それでも、気分が晴れることはなかった。
「……そんなのって、かわいそう」
 話を聞いて、ぽつりとつぶやいたのはパステルだった。
「ひどい。そんな理由で……ひどい、ひどいよ」
「パステル……」
 そんなパステルを見るクレイの目も、ダンジョンマスターに対する同情に満ち溢れていた。キットンの奴も、珍しく神妙な顔をしている。
 ……もしも見ていなかったら。
 実際に俺の目で確かめたんじゃなかったら。俺は即座に怒鳴りつけていただろう。「今相手に同情してる場合か」「まずは自分のことを考えろ」と。
 ダンジョンマスターの奴。まさかそれを見抜いて、俺をひきずりこんだんじゃねえだろうな?
 ありえねえとわかっていつつも、そんな考えが過ぎった。
 ……忘れろ。
 今は忘れろ。同情なんか後でいくらでもできる。
 第一……それとパステルと、何の関係があるって言うんだ?
 こんなダンジョンを作って、大勢の冒険者を巻き込んで……それと、ダンジョンマスターの過去と、何の繋がりがある?
「おめえらなあ! おひとよしも大概にしろよな!」
 地面を叩いて大声を出すと、びくり、とパステルの身体がひきつった。
「あのなあ。あっちにどんな事情があろうと、んなの俺達には関係ねえ! 自分が不幸だったからって、他人を巻き込む正当な理由になんかなりゃしねえんだ!」
「トラップ……」
「今俺達が考えることはな! 一刻も早く謎を解くことだ。そうじゃねえか!?」
 それは半ば以上自分に言い聞かせた言葉だったが。さすがにその言葉に、クレイ達の顔が引き締まった。
 そうだ。同情してる場合じゃねえ。謎を解かなきゃパステルの視覚と味覚は返ってこねえ。
 もう死んだ人間より、今ここにいるパステルの方がずっと大事だ……そうだろう?
「考えるぞ。第四の謎だ! 後二つ。ごちゃごちゃ言うのはその後でも遅くねえ。そうだろう!?」
「トラップ……」
 ぎゅっ、と服の袖を握られた。パステルの声に浮かぶ感情が何なのか、それはよくわからねえ。
 安心しろ、と言いかけたそのときだった。
「ぱーるぅ、くりぇー! こえ、こえー!」
 素っ頓狂なルーミィの声が、響き渡った。
 
「今度は少しはストレートな謎かけですねえ」
 表れた文字を読んで、キットンはふんふんと頷いた。
「ようするに……このダンジョンマスターさんが一番憎んでいた人をここに連れてきて……その……」
「……そいつを倒せばいいってこったろ」
 言い辛そうに言葉を濁したキットンの後を受け継ぐと、それを聞いていたクレイの顔が一気に強張った。
「倒すって……まさか……」
「……殺すってことじゃねえ?」
「だ、駄目だ駄目だ、そんなこと!」
 俺の言葉に、クレイはぶんぶんと首を振った。
「どんな理由があろうと、人を殺すなんて……そんな……」
「んなこと言ったってどうしようもねえだろ!? おめえ、パステルがこのままでもいってのか!?」
「っ……それは……」
「甘いこと言ってんじゃ……」
「駄目っ!」
 俺とクレイの間に割って入ったのは、パステルだった。
「駄目……駄目だよそんなの! トラップ、お願い。やめて……」
「…………」
「だ、駄目……殺すなんて、そんなのっ……」
「んじゃあ!」
 声が荒くなるのがわかった。
 何もわかってねえこいつらのことが、何だかすげえむかついて。
「んじゃあ、おめえはこのままでいいってのか!」
「っ…………」
 両肩をつかんで、乱暴に身体を揺さぶる。クレイが止めようとしたのか身を乗り出してきたが、キットンにひっぱられて動きを止めた。
「勘違いしてんじゃねえ……俺が平気だとでも思ってんのか。何とも思ってねえと、そう思ってんのか!?」
「だってっ……」
「おめえのために言ってんだぞ!!」
 瞬間、叫んでいた。自分の本音を。
 今のパステルには見えてねえ。俺の顔が、表情がわかってねえ。
 だったら、言葉で伝えてやるしかねえから。素直に、叫んでいた。
「おめえのために……おめえがこのまま、見えねえ、味わえねえままなんて嫌だから。だから言ってんだぞ!? 何でわかんねえんだよっ……」
「トラップ……」
「他にどうしようもねえんだよ! わかれよ。おめえだって嫌だろう!? このまま……おめえは何も悪くねえのに、勝手にこんなことに巻き込まれて! 俺は……俺は、なあっ……」
「っ…………」
 パステルの目からつうっ、と流れ出たのは。
 透明な、涙。
 嫌な沈黙が流れた。ひどく気まずい、重い沈黙。
 誰も何も言わなかった。そのときだった。
「ああー……」
「何だ? 何かわかったのか!?」
 響いたのは、キットンの声。そして、これ幸いとばかりそれにかみつくクレイ。
 視線が一斉にそちらに向いた。その先にいたのは、ふんふんと頷きながら文章を読んでいたキットン。
「ああーそうか。わかりましたよ、大体」
「わかったって、何がだよ!?」
「殺す……なんて物騒なことをする必要は、なさそうです」
 そう言って、キットンはげはげはと笑いながら言った。
「ほら、よく見てくださいよ。ここ。『完全に破壊する』って書いてありますよね?」
「……ああ」
「人間だったら、『破壊』なんて言葉は使わないんじゃないですかねえ」
「…………」
 言われてみれば、その通りだ。
 キットンの傍に走りよって、改めて文章を読み直す。
 ……確かに……この文章だと。「憎いもの」ってのは、文字通り、「物」……人間じゃねえ、って感じだよな。
「第一ですねえ。手を下すのは『我』……つまりダンジョンマスターさんでないといけない、と書いてあるわけですから」
「そう、それがわからなかったんだ。その……ダンジョンマスターさんは、もう死んでるんだろう? どうやって彼女に……」
「いえ、まあそれは後で考えればいいでしょう。まずは、彼女が一番憎んでいた『物』が何か。それを考えなければ」
 クレイの言葉に答えた後、キットンは、俺をじいっと見つめて言った。
「トラップ。あなたならわかるんじゃないですか?」
「……俺が?」
「我々はダンジョンマスターさんの姿を直接に見たわけではありません。逆に言えばあなたにしかわからないと思います。彼女が一番憎んでいたもの。それは何だと思います?」
「…………」
 それを聞いてとっさに考えたのは、白いガキを化け物だと追い回していた奴ら。あるいは、「守ってくれなかった」と、ガキにあれほどまでの絶望を与えた、その親……
 ……だが。
「違うな」
 ちょっと考えて首を振った。謎のことを抜きにしても。あのガキが「一番」憎んでいたのは、そいつらじゃなかったと、そう確信する。
 もしそうだとしたら。あのガキのナイフは……
「……自分自身じゃねえか」
「…………」
「こんな姿で生まれた自分を、一番憎んでたんじゃねえか。あのガキはな、ナイフを、他の誰に向けるよりも先に、自分に突き立てたんだ。一番憎んでいるからこそ、真っ先に壊してやりたくなった……そうじゃねえ?」
「そうですね。そう考えるのが、一番納得できます」
 俺の言葉に、キットンは即座に頷いて言った。
「となると話は大分簡単になりますよ。『我』の前に『我』を連れてくる……つまりは、鏡でも利用すればいいんじゃないですか? この女神像の前に大きな鏡でも持って来る……それが、『我が一番憎んでいるものを我が前に置く』ことになるんじゃないですかねえ」
 その言葉に、反論する奴は誰もいなかった。


13に戻る/15に進む



お題シリーズに戻る