20のお題 ダーク系お題
12 ナイフ


 ――第二の謎を無事に解きし者達よ
 ――次なる謎を解いてみせよ
 ――その場にいる限り決して謎を解くことは叶わず
 ――けれどもその場にいなければ謎は解けない
 ――必要なものを全て目に収めたとき
 ――我がナイフでそれを打ち破れ

 
 目を覗きこんだ瞬間、まるで脳に焼き付けられたかのように、そんな文章が見えた。
 第三の謎……だよな。
 けど……俺は、どうなったんだ? 何で、こんなとこにいるんだ……?
 きょろきょろと周りを見回す。
 一瞬視界が真っ暗になった。明かりが消えたのか、とも思ったが。どちらかと言えば、いきなり視界をふさがれた、という方がしっくり来る。闇とは違う、奥行きってもんが全くねえただ黒いだけの視界。
 そして、本当に一瞬の後。
 再び視界は明るくなった。
 だが、そのとき既に。俺の周りには、誰もいなかった。
「……どこだ、ここ?」
 声に出してみても、返事はねえ。
 妙な光景が広がっていた。どこかの丘の上。足元は柔らかい草で覆われていて、背後にはひときわ目につく大木が一本、そびえたっている。
 なだらかな下り坂が続いていて、その下に広がっているのは、小さな街並み。
 目をこらせば、住人らしき人影もちらほら見えるし、風に乗ってかすかなざわめきも聞こえる。
 だが、妙だった。
「…………」
 しゃがみこんで草に手を触れてみる。わずかに湿ったような感触が伝わってくる。
 だが……どれだけそれらしい感覚を伝えてきても。目をごまかすことはできねえ。
「薄い?」
 それが率直な感想だった。
 目の前の光景のどれもが妙に薄かった。どこか煙がかったような、ふわふわした頼りなさ。実体を伴ってねえような……まるで絵に描いた風景を見ているような、そんな錯覚に捕らわれる。
「……何だ、ここ……幻覚? おい、パステル! クレイ! キットン……ルーミィ、シロ! 誰かいねえか!?」
 どれだけ声を張り上げても、返事は全く返ってこねえ。
 認めざるをえねえ。どうやら、今この場には俺一人しかいなくて……そして、それはつまり。
 第三の謎を、俺一人で解かなきゃなんねえ、ってこと……
「……マジかよ?」
 残念ながら、嘘だ、と言ってくれる奴は誰もいなかった。
 
 いつまでも嘆いていても仕方がねえ、と、その場に腰を下ろす。
 目を閉じれば、鮮やかに浮かんでくる。最後に見た赤い光と、そこに浮かび上がった第三の謎が。
「その場にいては解けなくて、その場にいなきゃ解けねえ? ……相変わらずわけのわからねえことを……」
 文句を言ったところで、ダンジョンマスターに届くとも思えねえが。
 まあとりあえず、今回の謎は、考えるべきは前半よりもむしろ後半だろう。
「必要なものを全て目におさめたとき、我がナイフで謎を打ち破れ? ……ナイフなんざどこにあるんだ?」
 我が、ってことは。つまり……謎を書いた奴の持ってるナイフ、ってことだよな?
 もちろん盗賊たる俺のこと。ナイフくらいいくらでも持ち合わせているが……それじゃ駄目なんだよな?
「んで、必要なもの? 必要なものって、何だよ……?」
 何かを見ればいいことはわかった。その場、ってのはきっとこのわけのわかんねえ世界のことで。
 とりあえずここで何かを最後まで見届ければいい、ってのが謎の趣旨だろう、ってことは、わかった。
 ってことは……
「……あれか? その場にいる限り謎は解けねえ……ってのは。ここを脱出すれば謎を解いたことになる、ってことか?」
 そして、見なければならない何か、を見届けるためにはこの場に居る必要があるから。だから……
「なるほど。つまり、見なきゃなんねえもんを全部見た後、どっかにあるダンジョンマスターのナイフを使ってこの場を脱出する……それが謎を解いた、ってこと……か」
 趣旨はわかった。となると……
 まずやるべきことは。「見なければならない何か」を探ることと、脱出に必要なナイフを探すこと。この二つ、か?
「……やるしかねえか……」
 尻を払って立ち上がる。目的がはっきりしたせいか、少しは落ち着くことができた。
「うし……」
 まあとにかくここに居ても仕方がねえ。
 明らかに何もねえ丘を見回して、視線を下に向ける。
 とりあえずは人のいそうなところに行ってみっか。そこで誰かに話しでも聞いて……
 ……とは言っても。幻覚じみたこの世界で、まともな会話ができる相手が見つかるのか? 行ってみたら住人全員が石像でした、なんて落ちはねえだろうな?
 まあそれは、今ここで考えても仕方のねえことだが。
 そんな風に思いながら、道を一歩踏み出したときだった。
 
 ――きゃはははははは……――
 
「ん?」
 ふと足を止めて、耳をすませる。
 風に乗って、何かが聞こえてきた気がしたから。
「あんだ?」

 ――きゃはははは……待て待てー!!
 ――逃げるなよ、化け物! 待てー!!
 
「……子供の声?」
 そう。子供……だった。
 盗賊として耳を鍛えてある俺だからこそ聞こえたんだろう、本当に微かな声。
 それが、風に乗って届いた。
 いる……この世界には、確かに誰かがいるんだ……
「おーい、誰かいんのか!?」
 周囲を見回して声を張り上げてみるが。それに対する返答はねえ。
 だが、気のせいではなかった証拠に。笑い声は、いまだに響いていて。
 そして、徐々に、ではあるが。確実に、俺の方に近づいてきていた。
「誰か……いんのか!?」
 あっちか!
 バッ、と、進もうとしたのとは反対側……丘の上を振り返る。
 そこに。
 白い人影が、たたずんでいた。
 
「ねえ……トラップはどうなったの!?」
 わたしの言葉に、クレイ達は何も答えてくれない。
 目が見えないのがこんなに辛いことだって思わなかった。どれだけ知りたくても何もわからない。
 何があったの? トラップの身に何があったの?
 女神像は駄目。何だかわからないけど……すごく、すごく怖い。あれに近づいちゃいけない。
 大丈夫だ、ってトラップは言った。けど……
 確かに聞こえた。上の方からトラップの悲鳴が。そして、どさっ、って、大きな音がして……
「ねえ、何があったの!? クレイ、キットン! トラップはどうしたの!?」
「パステル……」
 優しく肩に手を置いてくれているのは、クレイ?
 ねえ、どうして……震えてるの?
 どうしてトラップの声が聞こえないの。彼は一体どうなったの?
 お願い、誰か……誰か、教えて――っ……!!


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