20のお題 ダーク系お題
11 顔


 ノルと離れることになったが、どうにか第二の謎までは解くことができた。
 パステルもどうにか落ち着き、今は大人しく俺の背中におぶわれている。
 残る謎は三つ。
「三つ目の謎は、どこにあるんでしょうねえ」
 崩れた土壁の前に車座になって、俺達はマップを覗き込んでいた。
 真っ先に声をあげたのは、キットン。
「第二の謎は、第一の謎を解いたときその場に現れたんですよね。だったら、第三の謎もこの近くにあるってことでしょうか?」
「そうと思わせてすっげえ遠くに出没してるって可能性もあるな。あるいは、この壁の外に第三の謎があるとかな」
 ばん、と土壁を殴ると、傍にいたルーミィが怯えてクレイの後ろに隠れた。
「ここのダンジョンマスターはえらくひねくれた奴だからな。あんま常識とかそういうことには捕らわれねえ方がいい」
「なるほど。確かに……しかし、とするとしらみつぶしに当たるしかないんですかねえ」
 そう言って、キットンは、パステルの方に視線を向けた。
「パステル、大丈夫ですか?」
「……だい、じょうぶ……」
 つくづく聴覚が戻ってくれたのはありがてえ。耳が聞こえるから、俺達の会話は全てパステルに伝わっているし、それに対する答えもちゃんと返って来る。
 その声は震えてはいたが、それでもはっきりと頷いた。
「わたしなら、大丈夫だから」
「そうですか……うーん、しかし困りましたねえ」
 全員でもう一度マップを覗き込んで、そして大きくため息をつく。
 ああ、確かに参った……謎を解こうにも、広大なダンジョンの中で謎そのものを見つけるのがまず困難ときたもんだ。
 このクエストは相当長期に渡ってこもりっぱなしになる、という話だったが……つくづくその話を聞いておいてよかったぜ。日も差さないこんなダンジョンで、食料の心配までする羽目になっていたら、俺達の気力はとっくに尽きていたかもしんねえ。
 そんな不吉な考えすら過ぎったときだった。
「……そうだ」
 ぽん、と手を叩いたのは、クレイ。
「そうだ。ノルが言ってたよな? 外で赤い玉を見つけたって」
「? ああ」
 第二の謎は、その「赤い玉」を見つけることがクリア条件だったらしい。もっとも、俺達は実物を見たわけじゃねえが。
「それがどうかしたのか?」
「いや、ちょっと思ったんだ。第一の謎を解いたら廃墟が消えて、そこに第二の謎が現れたんだろ? つまり、前の謎を解くことが次の謎の出現条件になってるんじゃないか、って思ったんだ」
「ああ」
「だとしたら、その『赤い玉』に、第三の謎出現のヒントが書かれてるんじゃないかなあ、って」
「…………」
 思わずキットンと顔を見合わせる。
 それは確かにありうる話しだった。だとすると……
「シロ! 悪い、もう一回頼まれてくれ!」
「がってん承知デシ!!」
 俺達の意図を素早く汲み取って。シロは、再び土壁をよじ登って行った。
 
 シロが戻ってきたのはおよそ十分後。
 だが、その答えは、俺達を失望させるものでしかなかった。
「ただの赤い玉デシたよ?」
 そう言って、シロは自分の責任、とでも言いたげにうなだれた。
「僕も見せてもらったデシけど、別に何も書かれてなかったデシ……」
「……どんな玉なんだ?」
「もらって来たデシ!」
 そう言って、シロは、くるりと背中を向けた。
 いつも背中に背負っている、ドラゴンの宝玉が入ったバッグ。そして、その脇に押し込まれている見慣れねえ赤……
「これが、ノルが見つけたっつー石碑にはまってた玉?」
「はいデシ」
「…………」
 玉を取り出して、皆の前に置く。
 何の変哲もねえ、俺の手にすっぽりおさまるくらいの玉だ。毒々しいくらいに真っ赤で、意外と重い。そして、確かに。くるくるひっくり返したりポタカンの光にすかしたり、と思いつく限りのことをやってみたが、別にヒントらしきものが書かれた様子も無い。
 外れか……?
「……ん?」
 そのときだった。
 それを見つめていたクレイが、ふと身を乗り出した。
「それ、何だか似てないか?」
「え?」
「あの女神像の目の色に、そっくりじゃないか?」
「…………?」
 女神像?
 そう言えば俺も思った。赤い玉だ、と聞いたとき、女神像の目が真っ赤に染まったことを思い出した。
 実際見てみると、「目」というにはでかすぎて、あまり似ているようには見えなかったが……
「確かなのか?」
「いや、俺だってしっかり見たわけじゃないから……」
 俺の言葉に、クレイはしどろもどろになって引き下がったが。
 何にせよ、今は少しでもヒントが欲しいときだ。行ってみて損ってことはねえ。
「女神像を調べてみますか?」
 キットンの言葉に、全員が一斉に頷いた。
 
 女神像は相変わらず元の場所に不気味にたたずんでいた。
 その顔の位置はノルの頭の位置とほぼ同じくらい。俺の身長では、目のあたりが光っていることは確認できても、本当に同じ色なのかどうかまでは区別がつかなかった。
「やっぱり似てると思うんだけどなあ」
 だが、俺よりは幾分顔に近い位置にいるクレイは、一目見るなりそう言った。
「もしかしたら、同じ玉がはまってるんじゃないか?」
「…………うし」
 うだうだ悩んでても仕方ねえ。わからねえなら、調べるまでだ。
「クレイ、パステルを頼む」
「ああ」
 覚悟を決めて、背負っていたパステルを下ろす。すると、ギュッ、と手を握られた。
「トラップ……何、するつもり?」
「んあ?」
 パステルの視線は、俺の方を向いてはいたが。その焦点は合っていなかった。
 見えない目を必死に動かして、パステルは、再びつぶやいた。
「ねえ、トラップ。今……あの場所にいるの? 女神像の場所に、いるの……?」
「……ああ」
「何するつもり?」
「ちっと調べてくんだよ」
 ぽん、とその頭に手を置くと、表情に不安そうな色が走った。
「調べる……って?」
「第三の謎だけどな、もしかしたら女神像にヒントがあるかもしれねえんだよ。だあら、それを調べてくんだよ」
「やめて!」
 びくり、と背中が強張った。
 俺だけじゃなく、その場にいた全員が、唖然とした目でパステルを見ている。だが、パステルはそれに気づいた様子もなく、必死の表情で俺にすがりついてきた。
「やめて……トラップ、お願いやめて! あの女神像は駄目……」
「だ、駄目って」
「何だかわからないけど、あれに近寄っちゃいけない気がするの! 普通じゃないの。怖いの……お願い、やめて……!」
「……パステル」
 何となく、胸がジーンと熱くなるのがわかった。
 心配してくれてんのか、俺のことを。
 自分の方がよっぽど怖い目にあってんのに。今だって……本当に感覚が戻るのか、すげえ不安だろうに。
 それでも、俺のことを心配してくれてんのか……?
「安心しろよ」
 その言葉に勇気をもらった。
 ますます思えたから。パステルを絶対に元に戻してやるって。絶対このままなんかでは終わらせねえって……
「おめえじゃあるまいし。俺は絶対無事に戻ってくるからよ」
 そう言って。
 握り締められたパステルの手をそっとほどいて、俺は、女神像の身体にとりすがった。
 
 凹凸だらけの身体は、上ることそのものはたやすかった。
 だが……
 触れた瞬間伝わってくるのは、妙な生暖かさ。
 石でできているはずだ。普通なら、ひんやりした感覚が伝わってくるはずなのに。
 その石像は、やけに暖かかった。まるで、人の肌みてえに。
「……まさかな」
 浮かんだ考えを即座に振り払う。第一、人間の肌だったら、こんなに硬いわけがねえ。
 この手触りはまぎれもなく石だ。暖かいのは……気のせいだろ。もしくは、地熱かなんかが伝わってきてるんだろう……
 自分に言い聞かせて、せっせとよじ登る。下で、クレイ達が不安そうな目を向けているのが見えた。
 安心しろ。今のところ、別に何もねえからよ。
 口に出すかわりに軽く手を振った後、女神像の肩をつかむ。
 胸の前で組まれたような形になっている腕を足場として、一気に身体を持ち上げる。目の前に、女神像の顔が来た。
 目が、合った。そのときだった――
「……うっ!!?」
 赤い玉と全く同じ、毒々しい紅の光……
 それをまともに見た瞬間。
 目の前が、一気に真っ暗になった。


10に戻る/12に進む



お題シリーズに戻る