20のお題 ダーク系お題
09 深い森


「……何のこっちゃ」
 つぶやく俺に、反論は一つも返ってこなかった。
 何もかもが謎だらけ。第一の謎とは大分パターンが違う、ということはわかったが。
 ……何だこりゃ。深い森の中に大切なものが隠されていて?
 けれど見つけようとすると見つけられなくなる?
 そして見つけてしまうと謎は永遠に解けなくなるだあ……?
「おい。こりゃどういうことだ。んじゃあ一体どうすりゃ謎は解けるんだ?」
 俺の言葉に、クレイもキットンもノルも、首を傾げて「さあ」とつぶやいた。
「謎……というよりまずこの文章が謎だらけですねえ。一体何を望んでいるんでしょうね、ダンジョンマスターは」
「へっ。大方俺達が『わけがわからん』と慌てふためくのを見て面白がってんだろうぜ。趣味の悪い奴だ」
 いつもなら、そんな悪態をつくとすぐに「聞こえるわよ」「言いすぎだろ」というような声がとんでくるはずなんだが。今度ばかりは誰も何も言わなかった。
 真っ先に言いそうな奴がぐったり気絶したまんまだからかもしれねえけど。
 …………
 ノルの背におぶわれたまま目を開けねえパステルの顔を見る。
 その顔を見るだけで、一瞬くじけそうになった心が勢いを取り戻すのがわかった。
 黙って諦めるわけにはいかねえんだ。パステルの笑顔を取り戻すためにも……前に進むしかねえんだっ……
「……考えよう」
 どかっ、と腰を下ろす。
 マップを広げて、謎の示されたプレートみてえなもんと見比べる。
「まず、だ……俺達はどうすればいいのか。深い森、ってのは、一体何のことだ?」
「ふうむ……」
 俺の言葉に真っ先に反応したのはキットン。
 もう何度も何度も見たはずのマップをもう一度ザッと眺めて、
「このダンジョンの中には、森……は無いですよね?」
「ああ」
 そりゃそうだ。洞窟の中だからな、ここは。
 光の差さねえ洞窟で、木が育つわけがねえ。苔ならともかく。
「とすると……さっきの廃墟もそうでしたけど。もしかすると、何か鍵となるスイッチのようなもの……廃墟の場合は罠に囚われることだったわけですが……そういったものがあって、まずはそれを作動させろ、ということですかね?」
「けど、見つけようとすればするほど見つけられなくなるし、そもそも見つけたら謎は解けなくなるんだろ?」
 それに異議を差し挟んだのはクレイ。
「大切なものが何かはわからないけど……見つけたら謎が解けなくなるってことは、見つけない方がいいんじゃないか?」
「ばあか。だったら、何でわざわざ『大切なもの』があるって書かれてんだよ」
 相変わらずわけがわからん、という表情を崩さねえクレイに、イライラと言い放つ。
 ああ確かに文字通りに読めばその通りなんだ。けど、そんなわけがねえ。何の関係も無いものがいきなり提示されるなんて、そんなはずはねえんだ。
 何かがある。『大切なもの』は、絶対に関わっているはずなんだ。
 どうすればいい。見つけなければいい? 見つけずにその存在を察知する? そんな魔法みてえな真似が……
 と、そのときだった。
「……森なら、外にあった」
 ボソリ、とつぶやいたのは、それまで黙ってプレートを眺めていたノルだった。
「この洞窟に入る前、俺達、森を通りぬけてきた」
「……ああ?」
 ノルが何を言いたいのか。それがわかった奴は、恐らく誰もいねえ。
 だが、その口調にただならぬものを感じて。俺達は、一斉にノルの方へと詰め寄った。
「あんだ、何か思い付いたのか?」
「い、いや、思い付いた、っていうか」
 俺達の剣幕に、ノルは少し身を引いて、だが身振り手振りで必死に言った。
「見つけようとすればするほど、見つけられなくなるってことは……わかりやすい場所にあるんじゃないかって思った」
「……盲点をついてる、ってことか?」
「思っただけだけど」
 それはありえる。というか定石だ。
 いかにもな凝った仕掛けを準備しておきながら、実はその傍に無造作にお宝が転がっている。けれど、ベテランの冒険者になればなるほど、仕掛けの方に目を取られて宝には気づかない……
「っつーことは、つまり?」
「その……謎を解くのに、何も洞窟の中だけにこだわらなくてもいいんじゃないかって、そう思った。深い森って、外の森を指してるんじゃないかって……」
「…………」
 その指摘に、皆で顔を見合わせる。
 言われてみればそうだ……別に「謎解きの最中ダンジョンの外に出るな」とは、誰も言ってねえ。
 深い森。見つけようとすればするほど見つけられなくなる……
 ダンジョンにこだわっていても、中を探している限りは絶対に見つからねえ……つまりはそういうことなのか!?
「冴えてるじゃねえか、ノル!!」
「ああ。よく思い付いたな、そんなこと!」
 俺達が口々に褒めると、ノルは照れたようにうつむいたが。
 さて……そうとわかったところで。まだ謎が解けたわけじゃねえ。
「……で、だ。どうする?」
 ダンジョンの外の森に、大切なものが隠されている……らしい。
 けれど、それを見つければ永遠に謎は解けなくなる。
 だが、じゃあどうすれば謎は解けるのか? そのヒントになりそうなことは、何も書かれていねえ。
「一度、外に出てみるしかない……ですかねえ」
 マップをにらんだ後、キットンは、「うーん」と呻いて言った。
「謎として深い森や大切なものが提示されている以上、何か関わりがあることは確かなんですよね……」
「だなあ……うーん。けど、全員であちこち行ったり来たりしてても、時間が無駄になるだけだな」
 首をひねった後、ポンと膝を叩く。
 となったら、これしかねえだろう。
「うし。俺がひとっ走り行って外を見てきてやらあ。何かあんだろ。もしかしたら、森の中に謎の続きが書かれたプレートがある……ってことかもしれねえしな。それがまたすんげえ難しい文章で、見たら余計にわけがわかんなくなるから謎が解けねえぞ、って脅してる……とかな」
「ああ、なるほど。それはありえるかもしれませんねえ。やっぱり今日のトラップは冴えてますねえ」
 俺の言葉に、キットンはげはげはと笑って頷いた。
「そうですね。トラップ一人なら、多分マップが無くてもここからなら外に出れますよね? じゃあ……」
「駄目だ」
 そのとき。
 ぼそり、とつぶやいたのは、またしてもノル。
 大きな手で、そっと俺の肩を叩いて。ノルは、つぶらな目で首を振って言った。
「駄目だ。トラップはここにいた方がいい」
「はあ? 何でだよ、ノル」
「トラップは、パステルの傍にいてあげたほうがいい」
「…………」
 その言葉に、俺は言葉を失い、キットンとクレイは「ああ、確かに」などと言いながら頷いてやがる。
 ……なあ。それ……どういう意味だよ?
 何でそんなこと言うんだよ。おめえら……まさか……
「ノル、おめえ……」
「俺が行く」
 俺に最後まで言わせず、ノルは首を振って言った。
「俺、大丈夫。道わかる。それに、俺なら小鳥達に話を聞くことができるから。それに、何かモンスターが出るかもしれないし」
「けど、ノル一人じゃ危なくないか?」
「大丈夫。パステルとルーミィ達を守るために、トラップとクレイはここにいてくれ」
 心配そうに言うクレイに、ノルはにっこり笑って言った。
 それは……確かにその通りだ。パーティーを2分割するっていうのは、俺達ひよっこパーティーにとっちゃ死活問題だが。
 ノル、あるいはクレイなら、一人でも何とかなるだろう。逃げ切れなくなっても、いざとなったら戦うだけの力は持ってる。
「……いいか? じゃあ、わからない、危ないと思ったら、すぐに戻ってきてくれよ」
「わかった」
 その決断を下すのは、リーダーとしては相当に勇気がいることだっただろうが。
 何分、パステルを抱えていてさらにはルーミィというガキがいる俺達は、どうしたって動きが制限される。
 なるべく早く謎を解くためにも。そうするしかねえんだ。
 自分たちに言い聞かせて、全員でノルを見送る。
 そんな俺達に「心配しなくてもいい」と一言だけ告げて。
 ノルは、元来た道を戻って行った。


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