20のお題 ダーク系お題
08 永遠


 もしかしたら、わたしは永遠にこのままなんじゃないだろうか……
 不意にそんなことを考えてしまって、そしてゾッとした。
 嫌だ。
 嫌だ。このまま、終わってしまうなんて……嫌だ。
 永遠にこのままなんて、絶対に、絶対に嫌だっ……
 どうすればいいんだろう。今のわたしに何ができるんだろう?
 どうすれば……
 そのとき。
 開いても何も見えない暗い暗い視界の中で、赤が踊ったような気がした。
 ……赤……
 見えていないはずなのに。その姿を鮮明に思い出せるからこそ……まぶたの裏に思い描くことができた。
 もう一度会いたい。
 永遠のお別れなんて嫌。
 もう一度……彼に、会いたい。
 そうと願った瞬間。
 やわらかい風の感触が、頬に触れた気がした。
 ……何?
 ぎゅうっ、と、暖かい……とても暖かい誰かの手が、わたしの手を握ってくれた。
 ああ……
 ぼろぼろと涙が零れる。
 だから、言ったじゃない。心配することなんか無いって。
 みんなを信用していればいいんだって。
 ぎゅうっ、とその手を握りしめる。
 それだけで、わたしは、全身を支配していた恐怖が、薄れて行くのがわかった。
 
「……一体、何が戻ったんでしょうねえ」
 何も無くなった広場にパステルを横たえて、キットンがつぶやいたのはそんなことだった。
 小説じゃあるめえし、訓練もしてねえ俺が腹を一発殴ったくらいでそうそう長いこと気絶しているとも思えねえが。パステルはいまだに目を覚まさねえ。
 それは、恐らく気絶前の恐ろしい記憶……何も感じることができなかった恐怖が、無意識のうちに目を覚ますことを拒否しているんだろう、ということだったが。それに関してはむしろ好都合だから別にいい。
 問題は、こうして一つ目の謎を解いた今、何かの感覚は戻ったはずで。
 けれど、そんなのは外から見ていることしかできない俺達にわかるわけがねえ。パステルにしかわからねえ。
 一体……
「パステル……」
 黙って見ていることしかできねえ自分が情けない。
 そう思って。そっと手を握ってやったそのとき。
「……! おい、キットン!」
「はい?」
 力なく垂れ下がったあいつの手。
 けれど、それに触れた瞬間……包み込むように握った瞬間。
 確かに感じたのは、握り返される暖かい感触。
 さっきまでの、闇雲に、力任せに振り回された手とは違う。明らかに触れられたことに反応している……!
「こういう反応が返ってくるってこたあ……こいつ、わかってるんだよな? 手を握られてるって、わかってるんだよな!?」
「そう、ですね。はい、確かにその通りだと思います!」
 ばっ、と目を輝かせて、キットンは何度も何度も頷いた。
「どうやら、触覚がまず最初に戻ってきたようですね……いやはや、それにしても良かった。謎を解いても何も起こらなかったらどうしようかと思いましたが」
 洒落にならねえことを言った後げはげはと笑うキットン。
 だが、それにつっこむ暇も、今は惜しい。
「よし、行くぞ!」
 そう思ったのは俺だけじゃないらしく。クレイも、生き生きと目を輝かせて立ち上がった。
「第二の謎を解きに行くぞ! 早くパステルを助けてやらないとな!」
「おお!」
 全員で一斉に拳を突き上げて。
 俺達は、第二の謎を求めるべく、再びマップを広げて立ち上がった。
 
 第一の謎は、わかりやすい……まあセオリーに沿った場所に提示されていた。
 すると、第二の謎も同じような場所にあるんじゃねえか?
 そう考えてマップをにらみつけるが。広大なマップに似たような広場らしき場所はいくつも書き込まれていて、簡単に絞り込むことはできそうもなかった。
 かと言って……闇雲に当たるってのもな。時間を無駄にするだけだろうし。
「ああ、でもよく考えたら」
 マップを手にああだこうだと頭をひねっている俺の横で、キットンが何気ない様子でつぶやいた。
「そのマップが当てになるかは、最早わかりませんよね。だって、さっきみたいな廃墟、マップのどこにも書かれていなかったでしょう? 罠に囚われた瞬間、このダンジョンは色々な変化を見せているみたいですから。してみるとマップだけを頼りに歩くのはかえって危険かもしれませんねえ……」
「…………」
 言われた言葉に思わずマップを握りつぶす。
 確かにそれはその通りだ。だが……そうだとして、一体俺達はどうすればいいんだ!?
「おい、んなこと今更言われたってなあ! 他にどうしろって言うんだよ!?」
 何も無い広場。
 その先にはてんでんばらばらな方向に伸びている何本もの道。
 一応、見た目にはマップ通りの場所に戻った……ように見える。このマップを書いた冒険者が辿ったのと同じ場所に戻ったように。
 それは謎を解いたせいなのか。あるいは同じに見せかけているだけなのか。
 ここのダンジョンマスターは一筋縄では行きそうもねえ。考えれば考えるほど、嫌な想像しか浮かばねえ。
 一体、どうすれば……
 無駄に鋭い視線がとびかった、そのときだった。
「……とりゃー」
 ぐいっ、とズボンがひっぱられた。
 ノルはパステルを背負っているから。クレイは戦う必要があるかもしれねえから、ということで。一人で歩く、と頑張っていたチビ、ルーミィが。
 俺をじいっと見上げて、地面を指差していた。
「ルーミィ、どした?」
「とりゃー。あんね、あんね。ここに変なのがあるお」
「変なの?」
 言われるままに視線を合わせるべくかがみこむ。
 ルーミィが指しているのは、さっきまで廃墟の扉部分があった辺りの地面。
「…………!? ま、まさか!」
 それに気づいた瞬間、俺は自分自身を殴りたくなった。
 ったく何やってんだよ俺は! こんなの、いわばパターンみてえなもんだろ!?
 一つ目の謎を解くと、その場で二つ目の謎が与えられる……
 このダンジョンの意地が悪いところは、時間に追われている俺達では、なかなかパッと目につかねえ場所にそれを提示させたこと……
 慌てて薄くそれを覆っている土を払いのける。その明らかに地面とは違う固い手触り。
 皆が固唾を呑んで見守る中。「それ」は、徐々に姿を現して行った。
 
 ――第一の謎を無事に解きし者達よ
 ――次なる謎を解いてみせよ
 ――深い森の中には、とても大切なものが隠されている
 ――けれども、それは見つけようとすればするほど見つけられなくなる
 ――大切なものを見つけたそのとき
 ――謎は永遠に解けなくなる



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