20のお題 日常お題 〜学生編〜 12 昼休み うちの学校には食堂が常備されていて、量が多くて値段が安くて、味もまあまあ。 そんなわけで、教室でお昼を食べる人は実はかなり少ない。 だから、経済的理由でいつもお弁当を持ち歩いているわたしにとって、一緒にお弁当を食べてくれる人が三人もいる、っていうのは、実はかなり運がよかったんじゃないかって思ってる。 昔は学食を利用していたこともあったんだけどね。それよりもお弁当を持ってきた方が断然お得! ってことに気づいたのと、すんごい行列と人ごみに疲れちゃって、それ以来よっぽどのことが無い限りはお弁当持参。 そんなわたしに付き合ってくれるマリーナとリタには、すっごくすっごく感謝してる。二人が居てくれてよかったあ、って思ってる。二人だけでもいいって、そう思っていたけれど。 やっぱり……二人と三人じゃ、違うよね。 「トラップの奴、どうしたのかしらねえ」 お弁当をつつきながら何気ない様子でつぶやいたのは、マリーナ。 その言葉に、視線が自然に引き寄せられた。空っぽの隣の席へと。 トラップ。同じ家に住んでいる同居人。自分の分も作るついでだから、と彼の分までお弁当を作ってあげたら、それ以来自然に一緒にお弁当を囲むようになった人。 席も隣だからね。マリーナとリタと四人で昼食を取るのは、もう日課っていうかごく当たり前のこと、みたいに思っていたんだけど。 今日。四時間目の授業が終わった途端、トラップはガタンと席を立って、さっさとどこかに行ってしまった。 「トラップ、どこ行くの?」 一応声はかけたけど、それに対する返事はなくて。かわりに、ひらひらとお弁当の包みを振られてしまった。 あれは、多分「別の場所でお弁当を食べる。昼休み中には戻ってこない」っていう意思表示なんだろうなあ…… それくらいはわかったし、トラップがどこでお弁当を食べようとそれは彼の自由というものだから、それ以上引き止めるのはやめたんだけど。 現実に三人でお弁当を囲んでいると、何て言うのかなあ……隣が寂しい、っていうか。何かすっごく物足りない気分になる。 ……彼と知り合うまでは、こうして三人で昼休みを過ごしていたはずなのに。 「パステル、何だか物足りなさそうね」 ため息をついていると、そう言って、リタが笑った。 「寂しいわねえ。わたし達だけじゃ、不満?」 「そそ、そんなことないっ。全然無いよっ! うん……ご、ごめん」 「謝らなくてもいいわよ。わたしだって、クレイが同じクラスにいたらそう思うかもしれないしね」 そう言ってぽんぽんと肩を叩いてくれたのはマリーナ。ちなみに、クレイっていうのはマリーナの恋人ですっごくすっごくかっこいい人なんだ。わたし達の一つ上で、今三年生なんだけどね。 「それにしたって、いつもパステルにべったりなあいつが、珍しいわねえ……」 一体どこがべったりなんだろう、と思っていると、「自覚してないところがパステルらしいわね」なんて言われてしまった。そんな会話を交わしながら、少し寂しい昼休みは流れて行った。 その着信に気づいたのは、お弁当もほとんど食べ終わって昼休みも残り半分、っていう時間。 「あれ?」 「どうしたの?」 「あ、ううん。メールが来たの」 がたがたと机を直しているマリーナに聞かれて、わたしはそう答えながら携帯を引っ張り出した。 普段ポケットにマナーモードのまま入れっぱなしの携帯。わたしにメールをくれそうな人って、大抵このクラスの人だもんね。後は……もしかしたらジョシュアとか? 何にしろ、こんな時間にメールが届くのは珍しい。そう思いながら確認してみると。 宛先人のところに並んでいたのは、見慣れないアルファベットの並び。 「……????」 ええっと……何だろう、このアドレス……t、r、a、……@、free…… 「え?」 変だな、と思いながらぴこぴことボタンを押して。 その本文を見て、わたしは思わず声をあげてしまった。 ――よう、ちゃんと見れてるかあ? 俺だよ俺。おめえのこったから、「誰だろう」なーんて思ってそうだけどな。 狭い画面の中にいっぱいに踊っている文字。この文体は…… 文章だけで誰かわかるっていうのも凄い話だと思う。間違えるわけがない……トラップ、だよね? で、でも彼のアドレスじゃないよね、これ? 何度も送信者アドレスを確認してみるけど。やっぱりそれは見たこともない……というか、これって携帯のアドレスじゃない? ?マークをいっぱいに浮かべつつ、本文の続きを見てみると。 ――今な、パソコン実習室にいんだよ。ちなみにこのメアドはフリメな。おめえ知ってっかあ? どのパソコンからでも自由にメールが送れるんだけどよ…… と、延々とその「フリーメール」なるものの説明が続いていた。 うちの学校には、パソコンを自由に使える部屋があるんだけど、別に授業に使われているわけでもないし、一部のコンピューターが好きな人にしか利用されていない。 かく言うわたしも利用したことはなかったんだけどね。だって、何だか難しそうなんだもん。機会の類ってちょっと苦手。 どうやら、トラップはそこからこのメールを送ってきたらしいんだけど…… ――とまあ、そういう便利なもんも世の中にあるんだよ。おめえのこったからどうせ難しそうとか思ってそうだけどな。使ってみると案外便利なもんだぜ? と、こんな感じで、受信できる最大文字数いっぱいまで使って、トラップからのメールは終わっていた。 ……ええと。 一体、何が言いたかったんだろう? 結局。 「だあらさあ、うちにもパソコン入れねえか? っつーことだよ」 戻ってきた彼に問い正すと、そんな返事が返って来た。 「あったら便利だと思わねえか? インターネットやメールができりゃあ、世界中どこに居ても連絡が取れるんだぜ?」 「世界中……ったって、別に外国に知り合いがいるわけじゃないし」 トラップはそんな風に熱弁していたけれど、どうもわたしには、その便利さというものがいまいち理解できなかった。 まあ、凄いものらしい、ってことは何となくわかるけどさあ。でも、何ていうか…… 「別にできなくても困らないと思うよ?」 パソコンなんて安い買い物じゃないし、そうそう気軽に「じゃあ買おっか」なんて言えるわけがない。 「連絡取りたい人なんてそんなにいないし。そんなパソコンなんか使わなくても、携帯で十分じゃない?」 そう言うと、トラップはちょっとの間黙り込んだ。 何だろう? 何か真面目な顔……そんなに重要なの? パソコンメールができるかどうかなんて…… 「……ま、そうかもな」 しばらく黙り込んだ後。はあっ、と小さく息をついて、トラップは言った。 「そだな。別に困らねえか……今は。おめえにパソコンが使いこなせるとも思えねえし、買っていきなり壊されたらたまんねえしなあ」 「なっ、何よその言い方ー! 失礼しちゃうったら! ま、まあ確かに、それは十分ありえそうだけどさあ…… ぽかぽかと殴る真似をすると、トラップは笑いながらさっさとそれを避けて行って…… でも、何でだろう。 ひょろりとした後姿を見つめて、首をかしげる。 トラップ、何だか変……あっさり引き下がってたように見えるけど。 何か、やけにこだわってたように見えたのは、気のせい……? そんなにパソコンがやりたかったの? そう聞きたかったけれど。 彼の背中は、わたしの質問を拒んでいるような。 何だか、そんな風に見えて、仕方がなかった。 お題シリーズに戻る |