20のお題 ダーク系お題
05 鎮魂歌


 ――大切なものを取り戻したくば
 ――館の主人に礼節を尽くせ
 ――ただし
 ――失われたものを駆使しなければ
 ――館の主人に出会えない

 
 …………
 書かれた「一つ目の謎」を見て、とりあえず俺達は沈黙した。
「おい。誰かこれの意味わかる奴いるか」
 俺の言葉に、返事は無い。
 大切なものを取り戻したくば……つまり、視覚だか聴覚だかしんねえが。失われた五感の一つ、だよな?
 それを取り戻すためには館の主人に礼節を尽くせ……館?
「多分この廃墟のこと、でしょうねえ……」
 俺がプレートを凝視して唸っていると、キットンがしみじみと言った。
「この謎をダンジョンマスターが作成したときは、この廃墟はまだ廃墟じゃなかったのでは?」
「……まあんなことはどうでもいいけどよ。っつーことはこの中に主人とやらがいる……ってことか? で、そいつに礼節を尽くせば感覚の一つは戻ってくると?」
「そういうことでしょうねえ」
「礼節を尽くすって、どうすりゃいいんだよ」
「…………」
 視線が一斉にクレイに集まった。
「な、何だよ?」
「なあ、クレイ。おめえ仮にもあんないい家の出身だからよ、礼儀作法とか厳しくしつけられたよな? 館の主人に礼節を尽くすって、具体的にどうすりゃいいんだ?」
「どうするって……」
 俺の言葉に、恐らくパーティー内で唯一「礼儀」なんてもんを身につけているクレイは、眉をしかめた。
「そんなこと言われたって、相手の身分やこっちの身分、両者の関係、立場、色んな要素によって変わってくるからなあ。一概にどう、とは言えないよ」
「うーん」
 クレイがわからねえとなると、俺やキットン、ノルやルーミィじゃ余計に絶望的な気がするんだが……「礼節」なんてもんとは程遠い生活してるしなあ、俺達。
「その前に、この下の文章を解読してみませんか?」
 ああだこうだともめていると、キットンが、ぐいぐいと俺の腕を引いた。
「この、『館の主人に出会えない』という文章ですよ。礼節を尽くそうにも、相手に会えなければ意味が無いでしょう?」
「ああ。まあそうだな……『失われたものを駆使する』? つまり、五感をフル活用しろ、ってことか?」
「恐らくは」
 五感をフル活用しないと会えない相手、ねえ……この廃墟が実はあちこち仕掛けだらけの隠し扉だらけで、そのどこかに主人が隠れてるからそれを探せ、ってことか?
「まあ、何にしろ……入る、しかねえよな?」
 俺の言葉に、全員が無言で頷いて。
 今にも崩れそうな廃墟のドアを、ゆっくりと押し開けた。
 
「……どわっ!」
 入った瞬間、思わず悲鳴をあげて飛び退った。
 見た目を裏切らねえぼろぼろの屋敷。おそらく建てられた当初はさぞかし豪勢な家だったんだろうと想像できる、螺旋階段だとか高そうな絨毯だとかシャンデリアだとかが趣味良く配置された内部。
 そこで、俺達は、いきなり耳を塞ぎたくなるようなおどろおどろしい音楽に出迎えられた。
「な、何だ、こりゃあ!?」
 会話の邪魔になるほど大きな音で流れてるわけじゃねえが。それでも、耳障りだと感じる程度には自己主張している音楽。それを聞いて、クレイが叫んだ。
「鎮魂歌だ!」
「……鎮魂歌?」
「ああ。有名な歌だ……学校で習ったと思うけど。お前覚えてないのか?」
「覚えてねえ」
 鎮魂歌、ねえ。なるほどな。確かに、聞いてるだけで気が滅入りそうになる。
 大きな屋敷っつーと、お抱えの楽団とかが客を出迎えるためにバックミュージックを演奏したりするが……この屋敷の場合は、この鎮魂歌がそれ……ってことか?
 趣味が悪いぜ、全く!
「まあ、とりあえず館の主人を探すか。五感をフル活用……ってこったから。どっかに隠し扉でもあんじゃねえ?」
「なるほど。そこに隠れている、というわけですか……トラップにしては冴えてるじゃないですか」
「そりゃどういう意味だ!?」
 言い争いながら足を進める。幸いというか、この屋敷には地下室の類はねえようで(当たり前だけどな。よく考えたらこの廃墟はあくまでもダンジョンの中に建てられてんだし)、上へ上へとしらみつぶしに探して行くしかねえ、という結論が出た。
「うし、行くか!」
 いつまでもパステルをこのままにしておけるわけがねえ……俺達が早速一番端の部屋のドアに手をかけたそのときだった。
 バタンッ!!
 突然、ドアが開いた。
 俺達が開けようとしたドアとは別の部屋。ちょうど階段を挟んで向かいの位置にあたる部屋。
 さっきまで確かに閉まっていたはずのドアが、今はぶらぶらと力なく揺れていて……そこから、一人の人影が、姿を現した。
 誰も何も言わない。まさか誰かが出てくるとは思わなかったから、度肝を抜かれたというのが正しい。
 しばらく凍りついたように動きを止めていた。人影は、俺達なんぞ目に入らねえ様子で、ドアを開け放したまま、ゆっくりと歩き出し……
「め、メイド?」
 つぶやいたのは、クレイだった。
 出てきたのは、紺のワンピースに白いエプロン、まとめあげた髪……と、典型的なメイドの服装をした若い女だった。
 陶器のような真っ白な肌にガラス玉のような目。恐ろしく整った顔立ちだが、整いすぎて個性っつーものが全くねえ、生気の感じられねえ女……
「……や、館で働いている人、でしょうか……?」
「ひ、人か? あれ……」
 キットンの呟きに、クレイが答えている。
 誰も断言できなかった。まるで人形のようなぎくしゃくした動きだが、人形にしてはその髪や肌は質感を保っていた。
 人間と人形の中間……? って、そんなもんが存在するのかどうかは知らねえけどよ。印象としてはそんな感じだ。
「……おい!」
「トラップ!?」
 キットンの非難じみた声が響く中、俺は、一歩踏み出して叫んでいた。
 ごちゃごちゃ考えててもしょうがねえ。
 せっかく出てきてくれたんだ。時間がねえ……うだうだ屋敷の中で迷ってたら、いつパステルが目を覚ますか……あの恐慌状態に陥るかわかんねえんだ。
 とっとと締め上げて主人の居所を吐かせる。それが一番早い方法だろう!
「おい、待てよ姉ちゃん!」
 ぐいっ!
 クレイが止めるのも聞かず、俺は、走りよってその女の肩をつかんだ。
 瞬間……
 ぐしっ!
 嫌な音が、手の下で響いた。
「…………な…………」
 女が、ゆっくりと振り返る。
 なめらかな、陶器のような肌……だった。
 だが。それは遠目に見た感想。
 間近で見たそれは、小さな小さな無数のひび割れが全体に走っていて。
 そして。
 とっさに離した手にこびりついているのは、しっくいのような、かけら。
 ワンピースの襟ぐりから覗く肌。俺が握ったその部分は、今、ぼろぼろと崩れかけていて。
 そこから見える、黒いどろどろしたものと、鼻をつく異臭、は……
「う……うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
 恥も外聞も忘れて、俺は絶叫していた。
 そんな俺を見て。メイド姿の女……腐って崩れかけた肌の上をしっくいで塗り固めた女は、にいっ、と、不気味な笑みを見せた。


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