フォーチュンクエスト二次創作コーナー


オーシ×リタ 1

 嘆いても仕方のないことだってわかってる。
 むしろ、友人として祝ってあげるべきだってこともわかってる。
 それでも。あたしだって……「悔しい」って思うことくらい、あるのよ。
「もおートラップってば! 早く帰ろうよー!」
「んんー? 帰りてえならおめえ一人で帰れば?」
「……わ、わかったわよ。帰るわよ、帰ればいいんでしょ!?」
「ほー。そうかそうか。おめえは俺を一人見捨てて帰るのか……冷たいですねえパステルちゃーん?」
 ほとんどお客さんのいない店内。その片隅で、そんな馬鹿な会話を繰り広げている二人の男女。
 ひょろりとした体格の赤毛の男と、長い金髪を一つにまとめたスレンダーな女の子。
 トラップとパステル。あたしの店の常連さん。
「もおっ……リタ、リタごめんね。本当にごめんねー!」
「……いいわよ、別に」
 おろおろするパステル。そんな彼女を見るトラップの目は、明らかに面白がっていて。
 彼の前には既にビールのジョッキが所狭しと並んでるんだけど。どうやらまだまだ飲むつもりらしく、ピッチが落ちる様子は無い。
「ちゃんとお金払ってくれるんでしょ? 大事なお客様だもの」
「本当にごめんっ……トラップってばー! もう閉店時間すぎてるんだよ? 早く帰ろうってば!」
「そおだなあ……んじゃあ戻ってもいいぜ。そんかわり、俺の楽しい時間を無理やり打ち切ったんだ。おめえ、その埋め合わせはしろよな?」
「う、埋め合わせ?」
 ひょいひょいと手招きされて、耳を寄せるパステル。トラップが何を言ったのかまでは、さすがに聞こえなかったけれど。
 パステルの顔がみるみるうちに真っ赤になったのを見れば、何を言われたのかは大体想像がつくってものよね。
「ばばば馬鹿っ! 何考えてるのよー! そんなの絶対嫌だからねっ!」
「ほー。んじゃ動かねえ。リタはいいって言ってんだ。なあ?」
「……いいわよ」
「もおー! リター! 本当にごめんねっ!!」
 今にも泣きそうな顔でぺこぺこ謝るパステル。
 けど、あたしは見逃さなかったから。トラップは単にパステルに甘えてるだけで、パステルだってそんなことくらいはわかってて。
 喧嘩してるように見せかけて、二人の顔には、どこか楽しそうな表情が浮かんでるってこと。
 ……全く。
 やってられないわよ!!

「……はあああああああああああああ……」
「やっと帰ったのか」
「あ、父さん……」
「こっちは大丈夫だから、少し休んでていいぞ」
「うん、ありがとう」
 台所の奥から声をかけてくれる父さんに手を振って、腰を下ろす。
 ああ、何だかどっと疲れたわ……別にいつもに比べて特別忙しいってこともなかったのに。何でかしら……
「はああああああああああああ……」
 チラリと目をやれば、いまだにジョッキが残ったままのテーブルが目に入る。
 さっきまでトラップとパステルがじゃれあっていた席。
 あの二人が付き合い始めてから……どれくらい経ったかしらね?
 一ヶ月? 二ヶ月……? まあ、半年は経ってないと思うけど。
「……幸せそうよねえ……」
 ついつい口調が愚痴っぽくなるのがわかった。
 トラップがパステルのことを好きなんだろうな、っていうのは、もう随分前からわかっていた。
 だってあいつってわかりやすすぎるんだもん。むしろパステルがいつまで経っても気づかないことの方が不思議だったくらい。
 あたしはパステルのことが大好きだし、彼女には幸せになってもらいたいって思ってるから。正直、トラップみたいな軽いノリの奴で大丈夫かしら? なんて思ったりもしたんだけど。
 どうしてどうして。あいつって、どうでもいい子とは適当に遊んだりするけど、いざ本命ができたらその子しか目に入らなくなるタイプだったみたいね。
 トラップが何て言ってパステルを口説き落としたのかは知らない。もしかしたら、パステルの方が自覚したのかもしれない。
 とにかく、気がついたらあの二人は付き合い始めていて……そして今。シルバーリーブで知らない人はいないっていうくらいの、公認カップルになっていた。
 それも、どちらかと言えば上に「バ」のつくラブラブカップル。
「…………」
 どんっ、とテーブルに拳を叩きつける。
 何だかすっごくイライラしてきちゃった。何でかしらね……いや、大体理由はわかってるんだけど。
「全く……やってられないわよっ!」
 やり場の無い怒りが胸にたまって、我慢できなくなった。
 奥に父さんがいるのに、とか。そんなことも忘れて思わず叫んだとき。
 カランッ
「おお? どーしたリタ。荒れてんじゃねえか」
 不意に響いたのは、ドアが開く音。同時に聞こえる、物凄く機嫌が良さそうな浮かれた声。
 このダミ声は、振り向かなくてもわかる。
「……オーシ。もう閉店時間なんだけど」
「硬いこと言うなって。何か飲ませてくんねえ? いやあ今日はカジノで大勝ちしてな。たまにはこんな日もあるんだなあ……」
「オーシ!!」
 ああもうっ。何でこんなときに!
 あたしがイライラとテーブルを叩いたときだった。父さんが、またまた奥から顔を出した。
「飲ませてやんな、リタ」
「父さん!?」
「お前も飲んでいいぞ。たまにはそういう日もあるだろう。オーシの相手してやんな」
「…………」
「じゃ、俺は先に家に戻ってるから。後片付けは頼んだぞ」
 唖然とするあたしを無視して、父さんの姿は再び台所に消えた。
 ……もしかして、見抜かれてる?
「話せる親父さんじゃねえか。んじゃあまあとりあえず、ビールでも持ってきてくれや」
 あたしの動揺なんか全く無視して。オーシはどこまでも上機嫌に頷いた。

 確かに今日のあたしは、飲みたい気分だったのかもしれない。
 こんな時間に、とか、あたしだって疲れてるのに、とか。言いたい文句は色々あったけれど。
 何だかんだ言いながらビールを二人分運んできて、オーシと差し向かいに座った瞬間。グラスはあっという間に空になっていたから。
「ほー。おめえさん、随分いける口だな?」
「馬鹿にしないでよね。接客業やってるんだから、これくらい……」
 言いながら二杯目を飲み干す。お酒を飲むことは結構あるけど、いつもならこんなにピッチは早くない。
 それだけ、今日は……
「……あーっ! 美味しい。ねえオーシ。付きあわせてるんだから、当然オーシのおごりよねえ?」
「はあ? 俺におめえさんの分まで払えってのか?」
「嫌なら追い出すわよ。もう閉店時間なんだから」
「へえへえ。わかったよ。全く気の強い看板娘だぜ」
 あたしの言葉にふんと鼻を鳴らしながらも、オーシの目は笑っていた。
 とくとくとつがれるビール。しばらくの間、二人とも無言でそれを胃に流しこむ。
 先に口を開いたのは、オーシの方だった。
「……で?」
「うん?」
「さっきは何を荒れてたんだ?」
「…………」
 だん、とコップを乱暴に置く。
 一気に飲んだせいか、大分頭にお酒がまわっているのがわかった。けど、これくらいで倒れるほどあたしは柔じゃないわよ。
「荒れてなんかないわよ」
「どう見ても荒れてるように見えたぜ。何をイライラしてんだ?」
「…………」
 いつもなら、こんなこと絶対に口には出さない。
 接客業なんだから。お客さんの悪口めいたことなんか絶対に言っちゃいけないんだけど。
 相手がオーシだから。他に誰もいないから。お酒が回ってるから……
 色んな理由をくっつけて、あたしは、喋っていた。
 自分の本音を。
「イライラしてる。正直に言うと、嫉妬してる」
「嫉妬?」
「トラップとパステルに」
「……ほー」
 あたしの言葉に、オーシは椅子に座りなおした。
 もちろん、シナリオ屋として彼らとは親しい付き合いをしているオーシだから。二人の関係だって知ってるはず。
「嫉妬ってこたあ……まさかおめえさんもトラップの野郎に惚れてたとか?」
「馬鹿言わないでよ。そんなわけないでしょ」
 その言葉は鼻で笑い飛ばす。これは本当。確かにトラップはいい奴だとは思うけど、あたしにとっては恋愛対象じゃない。そんな風には見れないのよ。好みじゃないってことかしらね。
 そんな理由じゃなくて……
「オーシ。あたしだってね、パステルと同い年の女の子なのよ」
「はあ? ……そうか。そういやあおめえさんも女だったんだな」
「サービス料として二倍の金額取るわよ」
「冗談だっつーの。で? それがどうした」
「だからっ……悔しいんじゃないの!」
 ばしん、とテーブルをひっぱたくと、コップの中のビールが揺れた。
「あたしだって年頃の女の子なのよ? なのに毎日毎日店で働いてばっかりで! 彼氏どころか好きな男すらいなくて……でも、あたしはそんなこと気にしないようにしようとしてたのよ。別に働くことが嫌いなんじゃないし、大勢のお客さんの相手をするのは楽しいもの」
「ほー」
「それに、そんな女の子はあたしだけじゃないって……パステルだって冒険者で。同じくらいの女の子なのにお化粧とかお洒落とかそういうことには全然気が回らなくて。パーティーの仲間にクレイだのトラップだのそれなりに女の子に受けそうな男がいるのに、『パーティーだから家族と一緒だよ』って、ついこの間まで真顔で言ってたのよ!? よく言ってたんだけどね。絶対そんなわけないでしょ? 一体どっちのことが好きなの? って。同じ年頃の男女が一つ屋根の下で暮らしてるんだもの。そういう興味が全然無いなんてありえないでしょう? って」
「まあなあ。あいつらの年頃なら、そうだろうなあ」
「そうでしょ!? なのにパステルったらきっぱり否定するんだもん。あたし、それ聞いてトラップに同情してたんだけど……心のどこかでは安心してたのよ。あたしだけじゃないって。この年になって浮いた噂の一つも無い子は、あたしだけじゃないって! なのに……パステルったら!」
「反動って奴じゃねえの?」
 あたしの言葉に相槌を打ちながら、オーシはビールを飲み干した。
「それまで全然興味がなかったから、余計にのめりこんでんじゃねえの? まあ二人とも若いしなあ。トラップの奴は随分我慢してたみたいだしな」
「わかってるわよっ!」
 空になったコップにビールを注ぐ。
 何だか顔が熱くなってきたわね……どうしちゃったのかしら? まあ大丈夫だと思うけどね。まだそんなに飲んでないし……
「わかってる。そんなのわかってるわよ。パステル、すっごく幸せそうな顔してた。喜んであげなきゃいけないっていうのはわかってるし、パステルにあたしの気持ちをわかれっていうのが無理なのもわかってるわよ。だって言ってないんだもん。……けど、悔しいのよ! 何だか見せ付けられてるみたいで!」
「かと言って、別におめえさんはトラップと恋人同士になりたいとか思ってるわけじゃねえんだろ?」
「当たり前でしょ!? 冗談じゃないわ。あたしは親友の恋人を奪うほど堕ちちゃいないわよ!」
 あたしのコップに、オーシがビールを注いでくれる。それをまた一気飲みして、大きく息をつく。
「ただ……ようするにあたしもあんな幸せそうな顔をしてみたい、っていうか、ねえ……」
「おめえさんも素敵な恋人、とやらが欲しいと。そう思ってるってことか?」
 オーシが浮かべるニヤニヤ笑いが何だかすごーく腹立たしい。
 ……ええそうよ。
 パステルが羨ましいのよ。あたしもあんな顔をしてみたい。大好きって言える人と恋人同士になりたいって、そう思ってるのよ!
 それに、二人が恋人同士になってから、パステルと喋る時間も大分減ったしね。それが寂しい、って思いも、あるのかも……
「……欲しいわねえ、恋人」
「その気になりゃあ、できるんじゃねえの?」
 とん、と目の前にコップが置かれる。
 顔を上げると、目元を真っ赤にしたオーシが、あたしを見下ろしていた。
「おめえさん、男前な性格してるしな。外見だっていけてる方じゃねえか? その気になりゃあすぐできるだろ」
「……無理よ」
「何でだよ」
「だって、好きな男なんていないんだもの」
 そう言うと、爆笑が返ってきた。
「な、何だそりゃあ……それじゃあ、嫉妬するとかそういう以前の問題じゃねえか!」
「うるさいわね、わかってるわよそんなこと!」
 ええ、わかってるわよ。恋人が欲しい、って言ったって。あたしには別に、今のところこれといって気になる人がいるわけじゃない。
 そんなあたしが二人に嫉妬したりするのは間違ってるって……そんなことは十分にわかってるんだけど!
「しょうがないじゃない。あたし今まで、朝から晩まで店のことに追われてて。そもそも出会いってものが無いんだもの」
「クレイなんかどうだよ。いい男なんじゃねえ?」
「冗談じゃないわ。あたしまだ命は惜しいもの」
 トラップがパステルと付き合い出したせいか、最近ますます数を増したクレイ親衛隊。
 何人かは顔見知りだけど。女の嫉妬は怖い……って、あの子達を見るとつくづく思うのよね。それを思えばパステルは立派だわ、本当に。
 あれを見ているせいか、あたしはどうも、クレイとトラップを恋愛対象として見る気にはなれないのよね。
 と言って……
「そうだなあ。そう考えてみると、この村ってのは年頃の男が少ねえよな」
 そう言って、オーシはうんうんと頷いた。
「まあ、小さな村だしなあ。おめえさんが嘆く気持ちもわかるぜ」
「……ありがと」
 同情されても嬉しくないわ。オーシだって一人身のくせに。
 もっともこの人の場合、結婚しないのは「一人の方が楽だから」って程度の理由だろうけど。
「とにかく、ねえ……あたし、は……」
 ……あれ?
 どうしたのかしら。呂律が……何だか……
「あたし、は……」
「お、おい!? リタ、どーした?」
 オーシの焦ったような声が聞こえる。けど、それに答えることができなかった。
 ぐるぐると視界がまわった。目の前に座っているオーシの顔が、ぐんにゃりと歪んで……
「おい、リタ!」
 悲鳴のような声を聞きながら。
 あたしはそのまま、机につっぷしてしまった。

 どれくらい寝ていたのかはわからないけれど、そんなに短い時間じゃなかったのは確かだった。
「……いったあ……」
 ぶれる視界の焦点を無理やり合わせる。身体を起こすと、ずきんっ、と頭が痛んだ。
 あたし……ああ、飲みすぎたのね。ちょっとピッチが早すぎたかしら……
「ったたた……」
「お、やっとお目覚めかあ?」
「え?」
 からかうような声がとんできて、がばっと身を起こす。
 ずるり、と肩から何かが滑り落ちた。拾い上げてみると、それは……
「これ……」
「おめえさん、案外酒弱かったんだなあ……まあなあ。お子様にはちっときつかったか?」
「お子様って」
 あたしは子供じゃないわ、って言うのは、それこそ子供っぽいってものよね。
 実際につぶれてたんだから、文句も言えない。仕方なく苦笑を浮かべて、拾い上げたそれをオーシに返す。
 汚れた上着。オーシがいつも羽織っていたもの。
 それを当たり前のような顔で受け取って、オーシは深々とため息をついた。
「全くなあ。おめえさん、仮にも接客業をやってんだろ? 自分の限界くらい見極めとけ」
「失礼ね。いつもこうなるわけじゃないわよ。今日はたまたま」
 たまたま飲みたい気分だったのよ。それに、愚痴を聞いてくれる相手が……オーシがいた。
 だからつい調子に乗りすぎたのよ。普段のあたしだったら、絶対にこんな醜態は見せない。
「……ありがとうね、オーシ。何? まさかずっと待っててくれたの?」
「帰っちまおうかとも思ったけどな」
 あっさりと頷いて、オーシは立ち上がった。
「おめえさんだって仮にも若い女の子なんだから。こんな時間に店に一人残しとくのはまずいだろうよ。俺じゃ鍵もかけられんしな」
「心配してくれたわけ? まさか、そんなこと言って寝てる間にあたしに手え出したんじゃないでしょうね」
「馬鹿言え。子供に手え出すほど俺はおちぶれちゃいねえよ」
 そう言って、オーシは大きく伸びをした。
 それにつられて壁に目をやると。時計は、もうとっくに深夜すぎを示していた。
「うわっ、まずい! 後片付け……父さん、怒ってるわね、絶対」
「そういやあ、親父さんは先に帰ったんだっけな。年頃の娘を一人置いて冷てえなあ」
「あんたが閉店時間過ぎてるのに押しかけてきたせいでしょ!?」
 あたしの言葉に、オーシはへらへら笑ってるだけだったけれど。
 それでも、ジョッキや空き瓶をまとめて運ぼうとすると、それに手を貸してくれた。
「手伝ってくれるの?」
「まあなあ。飲んだのはほとんど俺だしな」
 言われてみれば、あたしが寝る前より、空き瓶は随分増えていた。
 まさか勝手にとってきたんじゃないでしょうね……まあいいけど。お金さえちゃんと払ってくれるのなら。
「それに、これ片付けねえとおめえさん帰れねえんだろ?」
「そりゃそうよ。明日の準備が困るじゃない」
 ばしゃばしゃとジョッキを洗っていると、「そうだろ」って言って、オーシはカウンターから身を乗り出してきた。
「俺が先に帰ったら、おめえさん一人で家まで帰ることになるだろ?」
「……何よそれ」
「いくらシルバーリーブだってなあ、絶対何もねえ、なんて言い切れねえしな。家まで送ってってやるよ」
「いいわよ別に。すぐ近くなんだから」
「まあ遠慮すんなって。俺がつきあわせたせいでリタに何かあった、なんて言われてみろ。シルバーリーブにいれなくなっちまわあ」
 そう言って、オーシはからからと笑った。
「おめえさんの笑顔は猪鹿亭の……シルバーリーブの名物なんだからよ」
「…………」
 だんだんだん、と洗ったコップを並べていく。
 何も言わないのは……照れ隠し。
 自然ににやけてしまう顔を隠すため。
「お世辞言ったって、おまけなんかしてあげないからね」
「んだよ冷てえなあ……ま、でもお世辞ってわけじゃねえぜ。俺だけじゃなくて多分みんなそう思ってるだろうよ。だからな……」
 どん、とカウンターに背を預けて。あたしから視線をそらして。
「ま、そのうちいくらでもいい奴が見つかるだろうよ。まだ若えんだからな。焦ることじゃねえって」
「…………」
 世間話のついでのように言われた言葉で。ついでに言えば、オーシの顔はかなり真っ赤で、相当にお酒がまわっているみたいで。
 どこまで本気かわからない。もしかしたら、明日にはすっかり忘れてるかもしれないけど。
 それでも嬉しかった。
「ありがと」
 オーシ相手に素直にお礼が言えたのは、久しぶりかもしれない。

 後片付けはすぐに終わって。その後、店を閉めてオーシと二人、短い家路を肩を並べて歩いた。
「じゃあな」
 と言って手を振るオーシの背中を見送っているうちに。
 何でだか、胸がほんわかしてすごくすごく気分が良かったんだけど。
 これは、お酒が残っていたから……よね? ねえ。